2024年以降、警察は「横断歩道での歩行者優先義務」に関する交通違反の取り締まりを強化しています。特に注目されているのが、歩行者が横断しようとしているにもかかわらず、車が停止しない「歩行者保護不停止」という違反です。
今回は、なぜこの違反の取り締まりが強化されたのか、その背景や具体的な違反内容、運転者が注意すべきポイントについて詳しく解説します。
なぜ横断歩道での取り締まりが強化されたのか?
歩行者事故の多さが背景にある
近年、交通事故全体の件数は減少傾向にあるものの、歩行者が関与する事故は依然として多く発生しています。特に高齢者や子どもが関わる事故では、横断歩道上での被害が目立っており、「止まるべき場所で止まらない車」が原因となるケースが少なくありません。
警察庁の統計によれば、歩行者が死亡した事故の約7割が「横断中」に発生しており、その多くが横断歩道上での事故です。
ドライバーの違反が常態化していた
2022年のJAF(日本自動車連盟)の調査によると、信号のない横断歩道で歩行者が渡ろうとしているときに一時停止した車は、全国平均でわずか3割台。これは世界的にも非常に低い水準であり、交通マナーの悪さや意識の低さが問題視されてきました。
こうした状況を改善し、交通安全の意識を高めるため、警察は取り締まりを強化する方針を明確にしました。
歩行者保護不停止とは?どんな違反?
法律上の義務
道路交通法第38条には、以下のような規定があります。
「横断歩道や自転車横断帯において、歩行者や自転車が通行しているとき、または通行しようとしているとき、車両等の運転者は、その直前で停止しなければならない」
つまり、歩行者が横断歩道に近づいて明らかに渡ろうとしている場合、車は必ず一時停止して歩行者に道を譲る義務があります。
違反するとどうなる?
歩行者保護不停止は、反則金と違反点数の対象です。
- 普通車の場合の反則金:9,000円
- 違反点数:2点
一見軽いようにも思えますが、繰り返し違反すれば免停の可能性もあり、保険料にも影響するため、軽視できない違反です。
どんな場面で違反とされるのか?
明らかに渡ろうとしている歩行者を無視
例えば、歩行者が道路の端に立ち、左右を確認している様子が見えた場合、それは「渡ろうとしている」と見なされます。そうした状況で減速も停止もせずに通過すると、違反の対象になります。
対向車が停止しているのに無視して通過
横断歩道の手前で対向車が止まっているとき、それは歩行者が渡ろうとしている可能性が高いサインです。このとき、もう一方の車線を走っている車が止まらなければ、事故につながるおそれがあり、違反に問われることがあります。
夜間や悪天候でも同様に注意が必要
「見えなかった」「気づかなかった」では済まされません。夜間や雨の日でも、横断歩道の前では常に歩行者がいるかもしれないという意識が必要です。見通しが悪い場合は、速度を落として慎重に進行するのが基本です。
警察の取り締まり手法
ステルス方式の取り締まりが増加
最近では、警察官が私服で歩行者役を務めたり、遠くから撮影したりする「ステルス取り締まり」が全国で行われています。警察官がわざと横断歩道の前に立ち、車が停止するかどうかをチェックし、違反があればすぐに白バイやパトカーが追尾する形です。
これは一部で「やりすぎでは?」という声もありますが、法律を守る意識を浸透させるためには効果的とされています。
ドライブレコーダーの映像も活用
最近では、目撃者やドライバー自身が撮影したドラレコ映像をもとに摘発されるケースも増えています。SNSや警察への通報を通じて違反が明るみに出ることもあり、「バレなければ大丈夫」という考えは通用しません。
運転者が意識すべきポイント
横断歩道=減速の習慣をつける
信号のない横断歩道を発見したら、まずアクセルから足を離し、ブレーキに構える癖をつけましょう。この行動だけで、歩行者の有無を確認する余裕が生まれます。
歩行者がいれば停まる、いなければ進む、という判断が確実にできるようになります。
対向車が止まっていたら、必ず自分も止まる
横断歩道の手前で対向車が停止していたら、それは「歩行者がいるサイン」です。このとき、自分だけが止まらなければ、歩行者と接触する重大事故につながる可能性があります。対向車の動きにも常に注意を払いましょう。
歩行者の目線や足の動きに注目する
歩行者が横断歩道に向かってくるとき、目線や身体の向き、足の動きから「渡る意志」を感じ取ることができます。視線をしっかり配り、通過中のスマホや傘などで視界が遮られている歩行者にも配慮しましょう。
今後も厳しくなる可能性あり
政府は「交通事故ゼロ社会の実現」を掲げ、歩行者の安全確保を重視しています。そのため、今後も歩行者保護に関連した法律の厳罰化や、取り締まり強化が継続される見込みです。
また、自動車メーカーも自動ブレーキなどの安全装備を標準化する動きが進んでおり、「止まらないと違反」ではなく、「止まるのが当たり前」の時代が本格的に始まっています。
まとめ
歩行者を守るのは運転者の責任です。「歩行者優先」という交通ルールは、教習所でも必ず習いますが、実際の運転になると軽視されがちです。しかし一瞬の油断が、取り返しのつかない事故につながる可能性もあるのです。
歩行者は弱者であり、守るのは車の側の責任です。ルールの順守はもちろん、相手への思いやりの気持ちを持って運転することが、すべての交通参加者の安全につながります。
横断歩道では必ず一時停止を。その一歩が、命を守ることになるのです。